総務部予防保健課 食養生の料理店4

「さて、今日の食事も堪能したことだし、そろそろ今日のミーティングを始めようか。ダイチさんもいいかな?自分のコーヒーも持ってきてくださいよ。」

社長が満足した表情で話を切り出した。

「はい、では私もお邪魔いたします。皆様本日のお食事はお楽しみ頂けましたでしょうか。釈迦に説法とは存じますが、本日のテーマは啓蟄、大地に芽吹く春の息吹を感じて頂ければと考えてお食事のテーマを選ばせて頂きました。」

「いやいや、ダイチさん、いつも美味しい食事をありがとう。皆の表情を見れば満足度合いは十分伝わるんじゃないかな。美味しかったですよ。特にワシはあの鶏肉の煮込んだヤツが、身も柔らかくて手が込んでる感じがしたねぇ。」

「はい、近頃は醸造メーカーさんも様々なお酢を準備されておりまして、もちろん鶏肉がメインではありますが、お酢の味を強くさせてもらっても嫌味がなく、楽しんで頂けるのではないかと考えてみた料理です。」

「酸味は曲直を助けるからねぇ。冬の養生が足りない現代人の体を、春の氣に沿わせるのにはうってつけの食事だね。」

「ミドーさん、曲直なんて言っても、伝わるのは我々だけですよ。」

「お、ワシ分かるぞ。春は肝の発揚だろ。」

「現代人は肝の発揚よりも、年中、脾の昇清、補中益気湯が必要な場合が多い。」

「はいはい、ミドーさん、話が徐々に脱線してってます。社長さん、流石ですね。肝氣の巡りが伝わる方なんてなかなかいらっしゃいませんよ。」

「あの、す、すみません。私だけ全然話について行けなくて。」

「あ、ごめんなさいっ。あなたがスミスさんね。確か前にもいらしてくれてたわよね。年末の時期でバタバタしてて厨房から出てこれなかったの。ご挨拶が遅れました。木村大地と申します。」

「あ、はい、アツコ・スミスです。アツコでお願いします。神農のダイチさんのお話はジョーさんやミドーセンセーから常々伺ってます。ウチの会社がいつもお世話になっております。いつも美味しいお食事を提案して頂き、ありがとうございます。」

ダイチは、社長の提案で、ツイン工業の食堂の料理を監修していた。

「こちらこそ、いつもお世話になりっぱなしですよ。企業さんと提携して日々の昼食を監修させて頂く機会なんて、そう滅多にないことですしね。それも我々のような東洋医学に根差したコンセプトで活動しているグループに興味を持って頂けて、我々も本当に良い経験をさせて頂いています。甲田社長、改めてお礼を述べさせて頂きます。ありがとうございます。」

「まぁ、硬っ苦しい話は無しにしてだな。君らはそれぞれの立場でよくやってくれてると思いますよ。お陰さんで今日は皆さんの将来のビジョンについて取締役会で一定の賛同を得ることができた。これも皆、癸生河くんがウチの会社にきて、未病についての啓蒙活動を根気強く続けてくれたからだと思うな。あぁもちろん、御堂先生の治療院が全面的にサポートしてくれていることも取締役含め多くの社員が理解していることだし、ダイチさんの日々の献立が食養生という世界への理解をより容易にしてくれてることも本当に素晴らしいことだ。ウチの社員は皆、実体験で我々の目指す目標の素晴らしさを理解してくれていることだろう。」