総務部予防保健課 食養生の料理店6

「え、いや、社長、大事なこと、前から気になってた新しい部署の名前は。」

「あぁ、そうそう、アツコくん。部署の名前だけど、正直取締役会でも意見が割れてなぁ。最終的にワシに一任されたんだけど、今日この場でみんなの意見を聞いてから決めようと思ってなぁ。すっかり忘れてた。」

「で、どうするんですか?やっぱり東洋医学っぽい名前にするんですか?」

「そう、アツコくんもワシと同じでそっち派だったな。実はそこんとこで役員の意見が割れたんだわ。最終的にワシが提案したのは『未病保健課』なんだ。」

「あ〜、『未病』って言葉は製薬会社のCMなんかでも使われてて、耳にするようになってきてますもんねぇ。いいんじゃないですか?東洋医学の雰囲気が伝わってきて。」

社長から大事な話が発表されたと思ったら、矢継ぎ早に部署名の話が社長とアツコさんの間で盛り上がってきた。

 

ここで鍼灸師組が意見を始める。

「さて、どうよ、オーナー。やっと社内での活動が正式承認されるわけなんだが、名は体を表すというし、ちゃんと話あっておきたいたいもんだねぇ。基本的には部署名なんてウチの会社の中の話だが、少なからず関係して来ることだからねぇ。ちょっと素人受けを狙いすぎてないかな、これは。」

「そうねぇ、未病の本来の意味を考えるとねぇ。未病は既に病に一歩踏み込んでる状態だしねぇ。」

「未病っていう言葉は『未だ病にあらず』という状態を表していて、よく誤解されがちだけど、病が症状として未だ現れていないということであって、既に体が病気に傾いて、一歩踏み込んでる状態。東洋医学では既に治療対象になるれっきとした『病』の第一段階なんだよね。CMの関係か『未病』って言葉の響きが一人歩きしてるけど、未病は『未だ病気じゃない』って思われてる感じだよね。正確には『未病を治す』のが正しいので、『未病保健課』っていうのは、『不定愁訴保健課』みたいに症状を冠するようで、正直、変かな。」

「お〜お~、相変わらずズバッと否定してくるねぇ。しかし今の説明で伝わったかなぁ。ま、でも社長、ミドーくんのいう通り、私もちょっと引っかかりますねぇ。」

「おぉ、そうか、やっぱりワシはまだ未病という言葉の意味がよく分ってないみたいだな。ダメか。」

「ダメというわけじゃないですが、東洋医学の概念はまだまだ世間一般に市民権を得られている訳ではないですので、周囲に与える印象はなるべくハードルを下げてやるべきかと思います。ま、神農なんて古典の神様の名前を冠してるウチが言うことじゃないかもしれませんけどね。ハハッ。」

「そうかぁ、なら名前については、来週また考え直そうか。御堂くんとダイチくんは癸生河くんに意見を伝えてもらえないかな。社内掲示は4月1日だから、まだ少し時間はある。最後はワシが承認するだけだから。」