総務部予防保健課 応急処置2

「か、係長、立てる、腰が痛くない?な、なんで?」

 

「インスタントでごめんなさいね、これでも少しは効果あるから。」

シナモンティーを持ってきた女性が続ける。

「今は応急処置で痛みを誤魔化しただけだから。シナモンティー、ちょっと熱いけど冷ましながらどうぞ。」

 

さらに男性に肩を貸していた同僚が続ける。

「今のは腰の痛みが無くなるツボだよな!ようつうてんだったか?手の甲を人の身体全体、両手足に見立てて、腰に関係するツボを刺激して、痛みを消すのさ!痛かったろ?痛いところを狙って攻めるんだぜ!俺も受けたことがある。嘘のように効くんだこれが!」

 

「シンさん、説明ありがとう、詳しい話は、もう少し身体を診てからのほうがいいかな。そうしないと本人も誤解したらいけないし。それに今回は腰痛点じゃなくて腰退点(ようたいてん)ね。ま、どっちでもいいか。」

 

「とりあえず、顔色は戻ってるね。もうちょっと緊張は緩めとくけど、今日は早退してちゃんと治療を受けに行ってきてくださいね。課長には私から説明しとくから。」

 

「え?いや、係長、このままここで治療してくれりゃ助かるんだが。今日は月曜だし現場の仕事も始まったばかりだから。人手はいた方が。」

 

「確か長次郎さんだったかな?悪いけどここじゃあそこまで本格的な治療はできないんだ。ここは管理事務所。今、あなたが座てるのは、今から今週の出荷ミーティングが行われる場所なんだよ。とりあえずもう少し動けるようにはしとくから、とりあえず早退してもらって、その足で治療院に向買ってください。治療院にも私から連絡しておきますんで。」

 

相変わらず状況が飲み込めていない長次郎さんを言いくるめながら、私は手首を取り脈の様子を伺った。そして左脚のズボンの裾を捲り上げ、向こうずねをグッと親指で押した。

「おぉ~、そこそこ、気持ちいいなぁ、なんですかそれ?」

そして、カバンの奥から黄色い筒を取り出し、紫の太い線香に火をつけ、右足首の内くるぶしの上あたりにくっ付けた艾の粒に熱を移した。

「熱っ!?いや、熱くない。何だ?今のチクっとしたの?頭の先までスカッとして目が覚めたような気が。」

 

「社内で出来る応急処置はここまでね。とりあえず自力で帰宅できるはずだから。長次郎さん、家はどのへんだったかな?北区?じゃあ、戻って楽な服装に着替えたら、そのまま治療院に向かってください。急患だって言っておくから。」