総務部予防保健課 応急処置3

私の名は癸生河丈。香川出身の48歳。ツイン工業株式会社で勤めている。現在の所属は品質管理部。化学製品や金属製品の元となる原料素材を扱う企業で、自社品の製造販売はもちろん、他社品の輸出入など、商社的なビジネスも行なっている。200名前後の中小企業だが、近年、新興国レアアース需要や国内の新素材開発競争などが後押しとなり、不況と言われ続ける世の中で、比較的忙しく仕事をさせてもらっている。

 

何かと効率化、オートメーション化が謳われる時代だが、想定を上回るスピード感での社会の変化に対応するためには、特定の分野に特化した生産設備ではなく、雇用を増やし、多能工化を推し進めようというのが、経営陣の方針だ。

 

そんな中、昨年12月、キャリア採用で中途入社してきたのが先ほどのチョーさんだ。現場のリーダー職になってもらう予定で入社してきた。40過ぎでの正社員採用は珍しいが、どうやら海外での勤務経験もあり、人付き合いも良いことから、たった1ヶ月にも関わらず、現場の雰囲気にすっかり溶け込もうとしている。

しかしウチの社長はどこからともなく情報を入手してきては、将来の自身のビジョンを支える人材を採用してくる。

かく言う私も4年前に社長のツテでこの会社に入社したクチだ。

 

しかし社会経験が豊富なチョーさんも、職場環境や人間関係が変わって疲労が溜まったのだろう。気遣いも相俟って、体調管理が上手くいかなかった様子だ。今朝は急性の腰痛で動けなくなったようだけど、そのまま放っておくと今日の業務にも、更には明日以降の業務にも支障が出るため、この場で応急処置を施した上で、知り合いの治療院に向かってもらうことにした。