総務部予防保健課 御堂鍼灸院2

「あ〜、さてはジョーさんに紹介されてきたんですね?初めてですか?どぞどぞ!」

訳が分からないまま、鍼灸院の中に招き入れられた俺。何故か先ほどの女性が慣れた手つきで受付カウンターの中に入って問診票とペンを持ってきた。そしてティーサーバーのお茶を紙コップに注いでくれた。

「はい、五味子茶、どうぞ。御堂先生、もうちょっと時間かかると思いますんで、これを飲みながら問診票に目を通しておいてくださいね。もし分かるところがあったら、先に書いといてもらったらいいかも。」

「は、はぃ。」

「お~い、あっちゃん?新患さんかな?手伝ってくれるのは嬉しいいんだけど、それ、僕の仕事だから、キミは早めに仕事に戻ってくださいよ~。いや、今ちょうど手が離せなかったから助かったよ、ありがとう。で、もういいからね~。すいませ~ん。その人の説明してくれてる通りなんで、申し訳ないです、お茶飲んで待っててもらえますか?すぐ行きますんで~。」

部屋の奥から、若い男性の声が聞こえてきた。御堂先生だろう。

「と言うことです。ちょっと怪しいですね。私、ツイン大阪事務所の営業二課、アツコって言います。アツコ・スミス。あ、日本人ですよ。驚かしてごめんなさいね。加島工場の方ですか?」

やっぱり同じ会社の人だ。営業二課って確か海外担当だったかな。

「あ、はい、日々と申します。今朝、腰を痛めてしまって、ここには上司に紹介されて来ました。」

「ですよね~、ジョーさんでしょ?ここまで迷いませんでした?」

「あぁ、スマホのマップアプリが案内してくれたんで。でもちょっと入口が想像と違ってて、戸惑ってたところでした。案内して頂いて助かりました。ありがとうございました。」

「あ、じゃあ私、そろそろ仕事に戻りますね。もうちょっと待っててくださいね。」

「センセー、五味子茶、出しといたよ~。あとよろしくね~。」

「はいは~い、ありがと~、助かったよ~。加藤さんによろしくね~」

女性は立ち去っていった。

 

気がつくと、初めての治療院に招き入れられ、アツコと名乗る女性と、先生らしき男性の会話に挟まれ、俺は呆気に取られていた。

徐々に治療院の雰囲気が目に入って来た。

椅子はどっしりとした低めソファーだが、ほとんど沈まない、硬い椅子というかベットだな。こんなのバリ島のリゾートホテルで見たことあるぞ。なるほど腰痛持ちには、硬い椅子の方が座りやすい。片隅には座布団や清潔感あふれる真っ白なバスタオル。受付にはピチャピチャと小さな噴水。受付の後ろの窓から採光されているお陰で受付は明るい雰囲気。暖房は控えめ。少し肌寒いぐらいかななんて思いながら、目の前のテーブルに置かれた紙コップを思い出した。

「ごみ?ちゃ?中国茶か?」

口に運んでみる。ほのかに酸っぱい、いや甘い?旨い?烏龍茶やプーアル茶って感じじゃない。スッと飲める。そういや事務所で今朝シナモンティー飲んだ時も、温かいのに飲んじゃったな。俺、夏冬問わず冷えた飲み物が好きなのに、温かいのも飲めるもんだな。