総務部予防保健課 丁寧な問診と初めての鍼灸4
数分間は待っただろうか、問診テーブルで問診票とホワイトボードに何やら書き込んだあと、ベッドに戻ってきた先生はおもむろに
「んじゃ、鍼して行きますね。」
「え?いや、そりゃそうですけど、ハリ?さ、刺すんですか?どこに?」
鍼灸院に来て鍼治療は避けて通れないとは思っていたけども、いざ実際に刺されると聞くと流石に不安になる。すると先生はうつ伏せになった私の視線に入るようにニコニコと腰をかがめながら
「大丈夫ですよ。鍼治療専用の鍼っていうのは髪の毛みたいに細いんですよ、ほら、これ見えますか。」
真っ直ぐな銀色の鍼だ。想像よりもちっちゃくで細くて短い。こう言っちゃ変だが、なんだかシンプルで綺麗なハリだ。
「それにうつ伏せだし、背中になら見えないでしょ?大丈夫ですよ。これを筒を使って痛みなく一瞬で刺します。アルコール消毒は大丈夫ですね?じゃ、顔は好きな方向けてもらって、リラックスしててくださいね~。」
消毒のヒヤッとした感覚の後、大きな手がふわっと背中に添えられた。次の瞬間、トトンっと小刻みに叩かれたかと思ったら
「はい、終わりましたよ。今どうですか?」
「え?今刺さってるんですか?」
という問いかけるや否や、先生の指が鍼に触れ、少し動かしたのが分かった。
「あ、刺さってる。おっ、そこっ、おうっ!あぁ~それっ!」
かつて触れられた事のない腰の痛みのポイントを身体の奥でトントンと刺激され、ずぅーんという感覚が腰全体というか、腹の方まで伝わる。
「じゃ、このままちょっと目を瞑ってゆっくりしましょう。また声をおかけしますね。」
脇腹のあたりにコソコソと何かをおいたかと思ったら、足元にあった全身が隠れるタオルケットをばさぁっと背中全体にかけてきた。鍼にひっかるんじゃないかと思ったけど、なんともなかった。私は腰のあたりの痛気持ちいい感覚と、変に力を入れると痛いんじゃないかという思いで、積極的に全身の力を抜こうと意識した。結果、そのまま眠りこんでしまった。
「はい、日々さん、ご気分いかがですか?鍼、外しますね~。」
ふと目覚めた瞬間、全身が脱力してベッドにヨダレを垂らしてしまっていた。タオルケットを少しずらし、何やら触れたかと思ったら、消毒のヒヤッとした感覚が伝わってきた。
「あぁ、すいません、寝てしまってました。なんだか最近寝不足だったもので。どれぐらい寝てました?」
「7分ですよ。はい、ではもう鍼は外れてますので、ゆっくり起き上がってみましょうか。次、仰向けになりましょう。」
「あ、はい、そんなもんだったんですか?もっとぐっすり寝てしまったような。あれ?腰を捻っても違和感がない!」
「えぇ、よく効いてましたね。得氣が凄かったですよ。」
「とっき?え、いや、なんだか腰も腹も温かくなってますわ。それより肩も楽になって視界もスッキリしたような。」
「良いですねぇ~。とりあえず痛いところを狙って直接楽にしましたんで、次は根本の治療です。手足のツボに鍼をして行きますんで、仰向けになって楽にしてください。全身のバランスを整えていきます。」
もうこうなったら、完全に言われるがままだ。足首や手に鍼を刺された後、もう一度先生が腹をグッと押さえたら、初めの痛みが嘘のように消えて、自分の腹が柔らかくなっているのが分かった。
「では、仕上げて行きますね。最後にお腹に刺激を加えます。」
と言って、金色の細い棒と黒いハンマーのような物を取り出した先生は、腹の上で軽快なリズムとともに棒を叩き始めた。腹に押しつけられた棒の先からハンマーの振動が腹の奥に伝わってくる。