総務部予防保健課 丁寧な問診と初めての鍼灸5

「はい、では、今日のところはこんな感じですかね。立って腰の様子を確認してみましょう。」

御堂先生は改めて両手首の脈を交互に確認しながら、治療終了を告げた。

「あ、はい、ありがとうございます。え???うそ。スッゲェ軽い!痛みもつっぱりもない!おぉ~!」

「あ~、まだ無理はしないでくださいね。とりあえず緊張してた部分を緩めておきましたんで、今日はこのまま帰宅してもらってゆっくり休んでください。明日の朝にはもっと楽になってると思いますよ。最後に日々さんの身体の状態と腰痛が起きた経緯を説明して、ちょっと生活のアドバイスをさせてもらってから、次来て頂く日を決めましょうか。」

「あ、はい、いや、これ十分ですよ。治ったっすよ。驚きました。」

「まぁどうぞどうぞ、まずはこちらにお掛けください。今日は長い時間ありがとうございました。少しは症状が改善したようで良かったです。始めの症状を10としたら、さて今はどの程度でしょうね?」

「え?そうですねぇ。」

腰を捻りながらあえて数字に表してみた。

「半分、いや正直それ以下、3ってとこでしょうか。」

「良いですねぇ。先程、ご本人は治ったような感覚でおっしゃられていましたけど、よくよく考えるとゼロじゃないでしょ?油断大敵ですよ。今の感覚を覚えておいてもらって、5を超えてくるような場合は、すぐに電話やメールでいいですので相談してきてください。」

「これ、すぐまた悪くなったりするんですか?」

「そうですねぇ、まだまだ寒い時期が続きますから、今のうちにしっかり身体を休めておかないと、春先にまた調子が悪くなる可能性がありますねぇ。2月の節分までもうすぐですから、今が用心しどきですねぇ。」

「節分?豆まきの?あと2週間ほどですね。春と何か関係あるんですか?」

「節分って、立春の前の日でしょ?まだ節分って寒い時期ですけど、実はもう春が始まるんですよ。だから日々さんはこのタイミングで治療に来られてて良かったと思います。春になる直前ですが、今から次の季節に向けて体調コントロールを始めましょう。今日、治療に使わせてもらいました鍼灸っていうのは、東洋医学の理論を用いているんですけど、東洋医学と季節の移り変わりっていうのは密接な関係があるんですよ。日々さん、花粉症が少しあると書かれてましたよね?これ、今から治療を始めておけば今年の花粉症は少し楽になるかもしれませんね。転職されたばかりで気苦労やら寝不足やら、無理されてきたみたいですから。この後は季節を意識しながらご自身で養生していくことが再発防止のコツですよ。」

「え?腰痛治療と花粉症って?」

 

私は部屋の片隅にある椅子に座り、ホワイトボードで何やら東洋医学の治療方法と今回の私の腰痛の原因について説明を受けた。

 

どうやら、年末年始の暴飲暴食と寝不足、仕事上の気疲れで内臓が弱っているところに、寒さが追い討ちをかけたとのこと。ただ、季節がどうのこうのというのはよく分からなかった。とりあえず今日以降、しばらくは冷たいビールは我慢して、アルコール自体飲む量を控えるように言われた。夜は温かい風呂に浸かってよく寝るように言われたのは守ろうと思った。そういや最近忙しくてシャワーばっかりだった。冷たいビールは真冬でも習慣のように飲んでたけど、確かに芋のお湯割りでも気分的には問題なさそうだ。飲み過ぎ注意か。腰痛とどう関係があるんだ?何はともあれ、腰の調子は良くなったのは確かだ。ただ問診票に花粉症ありとは書いたものの、今の体調と花粉症がどのように関係してくるのだろうか?正直なところ変わったことを言う先生、と言うのが第一印象だけど、実際に腰の調子が良くなってるんだから説得力がすごい。

そんなことを考えながら、私は自宅に戻りがてらスマホから癸生河さんにメールで連絡をした。

『ご心配おかけしました。とりあえず、腰の調子は良くなりました。明日はいつも通り出勤しますので。シンさんにもこの後連絡しておきます。次は3日後に来るように言われましたので、御堂先生の治療院には仕事の後に伺う予定です。』

『ご苦労さん。シンさんにはこっちから言っとくよ。今日は暖かくして早めに寝な。多分、明日の朝は起きるのキツいぞ。』

また不思議なメッセージが返ってきた。私は朝はめっぽう強い方なんだが。鍼灸師ってのはよく分からん。