総務部予防保健課 丁寧な問診と初めての鍼灸2

案内されたのは、竹細工と緑色を基調にした清潔感のある診療室だった。20畳はあるだろうか、想像以上に広い。十分に暖かく、少しメガネが曇る。アロマというか、お香の匂いがする。ベットは2台並んでいて間には布製のパーテーション。ベットとは少し離れた部屋の片隅に小さなテーブルセット、壁にかけられたホワイトボードには大きな星の模様が描いてある。難しそうな本が棚に並んでおり、ガイコツの模型も並んでいる。ひとつの部屋というよりは会話スペースとベットスペースでそれぞれ空間が用意されているような感じだ。

「では、まずこちらにお掛けください。腰痛と伺っていますが、見た感じ今は座ったり立ったりは大丈夫のようですね。」

「あ、はい。今朝は歩くのもやっとだったんですけど、会社の人に処置してもらって、今は嘘のように動けてます。」

「癸生河さん、ジョーさんですね。とりあえず急性期の処置は終わらせてくれてるみたいですね。良かったです。そんなに長引かないといいですね。」

「え、あの、ジョーさんって、癸生河係長とはやっぱりお知り合いなんですか?あの方って?」

ひとまず腰の痛みはマシだからか、今の最大の関心事は癸生河係長と、この鍼灸の先生のことだ。いくら癸生河さんの紹介とはいえ、どんな人なのかもう少し知っておきたい。

 

「やっぱりジョーさん、何も説明されてないんですね。相変わらずだなぁ。あ、いや、あの人、私と同じ鍼灸師なんですよ。」

「え!?あの人が鍼灸師!?鍼灸師ってことはもちろん先生と同じように治療ができる人ってことですよね。あ~、だから今朝も手際良く処置してくれたのかぁ。ちょっと痛かったけどウソみたいに楽になりましたし。」

「そういうことです。今は訳あってツイン工業さんでサラリーマンをやってますけど、元々私と彼は鍼灸学校時代の同級生なんです。まぁ、年齢は彼の方が大分上ですけどね。で、今は職場の皆さんに体調面のトラブルがあった場合は、状況を見極めて、必要に応じてウチを紹介してもらってるという間柄なんですよ。ここはツイン工業さんの営業所からも近いですし、工場からも3駅ぐらいですしね。ま、その辺の話はおいおいお伝えするとして、今は治療を進めましょうか。」

「あ、はい、すいません。いや実は私、今の会社には、去年の年末に入社したばっかりで、まだ1ヶ月ぐらいなんですよね。だからまだうちの会社のことも知らないことが多くて。癸生河さんがそんな人だったなんてことも。」

そんな話を皮切りに、最近転職してきたこと、職場での仲間との関係、以前の仕事のことや家族のことなど、なんだか身の上相談のような問診が小一時間ほど続いた。不思議と当たり障りのない問いかけだけれども、あぁそうそうと頷いてしまう場面の多い、先の答えを見透かされているような問診が続いた。